ゲストハウスやホステルなど、ドミトリーを中心とした宿泊業態には、個人的にも強い思い入れがあります。私自身、学生時代にバックパック一つで東南アジアを旅していた頃、タイやベトナム、ラオスなどで宿泊したのはほとんどがゲストハウスでした。安価でありながら、旅人同士がラウンジで交流し、情報を交換し、仲間を見つけて次の街へ向かう――そんな文化がそこにはありました。
当時の日本には、ゲストハウスという存在自体がごくわずかで、いくつかの老舗を除けば個人が細々と運営する形がほとんどでした。しかし、2012年、東京・蔵前にオープンした「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」は、その流れを大きく変える存在となりました。Nuiは、安さやコミュニティという従来の価値に加えて、洗練されたデザイン性、文化的な空気感、そして高品質なレストラン・バーを融合させ、“泊まらない人も訪れる場所”という新しい価値を生み出しました。
これをきっかけに、「ホステル」という言葉は、従来の素朴なゲストハウスとは一線を画すブランドとして定着していきます。そして全国に次々と似たスタイルの施設が誕生し、やがて大手企業もこの領域に参入するようになりました。
しかし、インバウンド需要の急成長とその後のコロナ禍という急激な波にさらされ、多くのホステルは大きな試練を迎えました。特に、個人で運営するホステルにとって、稼働率の低下や衛生対応の強化は大きな負担となり、休業や閉業を余儀なくされたケースも少なくありません。
そうした中で、当社では「一棟貸切型」への転用という新たな形を提案・実行しています。最近の事例としては、大分県別府市にある「Linden haus」。1970年代の雰囲気を色濃く残す、梅園通りという風情ある路地に面したホステルを、1グループ貸切型の無人宿泊施設へと再設計しました。その結果、開業後すぐに好稼働を維持し、予約も安定。高収益のモデルとして定着しています。
もともとホステル運営というのは、見た目の華やかさとは裏腹に、24時間365日の管理が求められ、売上に対して人件費を支払う余力も限られがちです。オーナーが現場に立ち、身を削って成り立たせているケースも非常に多く、決して楽なビジネスではありません。しかし、当社に運営を委託いただければ、そのような負担から解放されつつ、建物の魅力を活かした運営が可能となります。
宿のかたちが時代とともに変わっていくのは自然なことです。だからこそ、そこに込められたオーナーの想いや地域の魅力を次の形で活かす“転用”こそ、我々が担うべき役割だと感じています。今後もこうした再生の物語を、各地で丁寧に積み重ねていきたいと考えています。
――出張先、別府にて。