起業家精神と聞くと、「選択と集中」が重要だとよく言われます。リスクを取って新しい挑戦をすることこそが、成功への道であり、企業家のストーリーの多くでその言葉が強調されます。しかし、山口周さんの『人生の経営戦略』で語られた「保留と分散」、つまりオプションバリューを確保することこそが、実際には賢明な選択肢であるという点は、非常に示唆に富んでいます。
私は、北海道でシェアハウス事業を始める際、市場が不明確だったため、融資を受けるのではなく、現金で物件を購入してリスクを最小化しました。これにより、万が一失敗した場合にも対応できるオプションを持つことができました。また、民泊事業に傾倒していく中で、シェアハウス事業をしばらく残しておくという判断をしました。見た目には大胆に決断したかのように思えますが、実は「石橋を叩いて渡る」臆病な一面を持っていたのです。
若い時に比べ、今では無謀な賭けをすることは少なくなり、守るべきものが増えたからこそ、より慎重な判断をしています。それを私は「成熟」と呼び、自分自身の経営戦略の一部として、より分散的なアプローチを取るようになったと感じています。
「選択と集中」という王道の経営方針に囚われることなく、いかにリスクを分散し、オプションを保有し続けるかが、長期的な成功に繋がるのではないかと、これまでの経験からも確信しています。